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自作の小説を綴って行きたいと思います。


by luchiah2r8m5

第一章   始まり

カケルはその場を去りたい気持ちに駆られ、同時に声のする方向から目を離す事が
できなくなってしまった。
後ずさりしたくても、目をそらしたくても、体が固まったように動かない・・・。
 そして、声の主がこちらへ向かって来る気配がした。
ゆっくりと、階段を降りて来る・・・。
 「うっ うわ うわぁ~っ!」
思わず声にならない声が出た。
その声に、祖母の幸子が飛んできた。
 「カケル、どうしたの?」
幸子の目に、階段を見つめたまま一歩も動かず、おびえてふるえているカケルの姿が
写った。
おそるおそる階段を見上げると・・・。
 何とそこには、5,6歳くらいの女の子が立っていた。
おびえるだけのカケルとは違って、祖母の幸子は徐々に落ち着いて行った。
 「もしかして・・・あなたは。 ・・・・・・美沙子? 美沙子・・・よね?」
幸子は、まるでとりつかれたようにフラフラとカケルの横をすり抜け、女の子に向かって
階段を登って行く。
 「そのおかっぱの髪は、私がいつも切っていた。 その赤いセーターは、私が編んだものよ。
 間違いない。」
泣いていた女の子は、ふと泣くのをやめて不思議そうに幸子を見つめた。
カケルはようやく体のこわばりが消えて、普通に考えることができるようになった。
 「おばあ・・・ちゃん」
声をかけると、幸子は女の子を見つめたままで言った。
 「この子は・・・美沙子よ。5歳の頃の。間違いない・・・美沙子だよ」
そして涙で声をつまらせながら手を差し伸べた。
 「美沙子って・・・母さんのこと? でもどうして?何で母さんなの?」
現実の母・美沙子は、自分を5歳のユナだと言い張って病院にいる。
そして今度は、5歳の美沙子がここにいる。
一体、どうなっているのだ・・・・?


 
# by luchiah2r8m5 | 2006-12-03 13:56 | MoonBird

Moon Bird

   いつも、病院から自宅に帰るカケルの足取りは重い。
母の美沙子に、「ママ」と呼ばれる気持ち・・。
息子なのに、まだ小学生なのに。
こみ上げる思いと同時に、涙が盛り上がる。
それを一生懸命にこらえて、カケルはやみくもに足を早める。
 「何のために、自分は生きているんだろう」
 「何のために、生まれてきたのだろう」
胸の奥に、深く重く沈んでいる思い。
黒々とした存在がふいに手を伸ばし、カケルを捉えようとする。
カケルは必死に逃れながらも、いつかその黒々とした底なしの沼のような闇に落ちてしまい
そうな気がして怖かった。


  「ただいまーー。」
そんなカケルを、祖母の洋子の待つ家は、暖かく迎えてくれる。
ユナが亡くなってから、自分をユナだと言い張ってずっと病院に入院している母に代わって、
祖母はこの家に同居して、カケルと父の世話をしてくれているのだった。
 「おかえり、カケル」
その笑顔が、母であってくれたらどんなにいいか・・・そう思いながらも、心があたたかくなり
ふっと和むのを感じた。
 「美沙子は元気だったかい?」
 「うん。」
この会話も、もうどれくらい交わされただろう。
そして、後どれくらい繰り返されるのだろう。
カケルは、用意されていた夕食と一緒に、その思いを飲み込んだ。
 「ごちそうさま」
 「はい。お風呂に入ってね」
 「うん。」
 「明日、何か準備するものはない?」
 「ううん、今日はないよ。」
それももう、この何年か交わされてきた会話である。
何かあれば伝え、なければ自分の部屋に向かう。

 その日、リビングから出たカケルをいつもと全く違う感覚が襲った。
  Σ( ̄ロ ̄|||)
冷たい氷のようなかたまりが、頭のてっぺんからすごい勢いで全身を駆け巡った。
 ・・・・・・・・・?・・・・・・・・・・・・・・・・・・
全身を耳にして、全力でその原因をつきとめようとする。
・・・・・・・・・・・・・・・・やがて、小さな小さな声が、カケルの耳に届いた。
  「えっ・・・・・ふえっ・・・えっえっ・・・・」
    泣いてる?
    誰が?



 
# by luchiah2r8m5 | 2006-10-27 16:32

お知らせです

  このブログには、私の自作の小説を綴って行く予定です。
いつからかは、まだ未定ですが・・・。とりあえず書いてみましたーー!!
まだ慣れないのであしからず。
# by luchiah2r8m5 | 2006-10-18 16:44